REPORT
AI for Sci...

AI for Science によって、次世代のスターサイエンティストが生まれる
最近、「AI for Science」という言葉が使われるようになりました。これは、AI 自体を研究する「Science for AI」とは異なります。「AI for Science」 とは、AI を活用して、研究を加速することを意味します。生命科学、材料、化学、物理、環境、エネルギーをはじめ、コンピュータ科学や情報工学に限らず、あらゆる分野に精通する研究者が AI とともに研究を進める時代が、すでに来ています。
AIであらゆる分野の研究が加速する
Co-Scientist (※1)は、AI for Science の象徴的な事例となりました。Imperial College London などの研究チームが未発表だった細菌の遺伝子転移メカニズムについて、Co-Scientist は実験結果を知らされない状態で同じ中核仮説に到達しました。論文中の概要図では、人間側の実験研究が約10年、AI による仮説生成が2日(48時間)と示されています[1]。2024年には、タンパク質構造予測の50年来の難問に挑んだ AlphaFold2 の Demis Hassabis と John Jumper が、計算によるタンパク質設計を切り拓いた David Baker とともに、ノーベル化学賞を受賞しました[2]。いずれも、AI・計算科学の研究者とドメイン科学者が協働し、生命科学の問いへ踏み込んだ結果です。AIは、研究スピードを加速させるだけではなく、人間が扱える問いの規模そのものを変えています。
※1:2025年に Google が発表し、2026年に Nature で報告
この動きは、国策レベルで加速していると言えます。2025年11月、米国は DOE(アメリカ政府エネルギー省)主導で Genesis Mission を立ち上げました。DOE の17の国立研究所、大学、産業界をつなぎ、AI・スーパーコンピュータ・科学データを統合する国家的な研究基盤を構築する構想です。
2026年には26件の科学技術課題が示され、2億9300万ドル規模の公募も始まりました[3]。この背景には、科学データの爆発的な増加があります。例えば、チリの Vera C. Rubin Observatory は、10年間の観測で毎晩約20TBのデータを生成[4]。SLAC(スタンフォード国立加速器研究所)の処理ソフトウェアは、チリから送られた観測データを過去画像と比較し、変化が検出されるたびにアラートを生成します。その数は、稼働時には毎晩最大約700万件にのぼるとされ、人間が一つずつ確認する前提では、すでに研究が回らない規模の問いが現れています。
カナダ・トロント大学の Acceleration Consortium は、その先を示しています。AI と自動化で、アイデア、実験、データ収集、仮説更新を閉じたループで回す self-driving lab を構築し、トロント大学内の複数ラボに加え、世界30か所以上にある AI 駆動型ラボにアクセスできるネットワークを形成しています。カナダ連邦政府の大型助成を受け、創薬・新素材・低炭素材料の発見を、従来の何分の一かのコストと時間で進めることを目指しています[6]。
次世代のスターサイエンティストはAIを使いこなす
重要なことは、AI が研究者を置き換えることではありません。仮説生成、先行研究の分析、解析、シミュレーション、実験計画の一部を AI が担うことで、少人数の研究チームでも、従来なら大規模ラボでしか扱えなかった問いに挑めるようになってきました。
こうした変化が、次世代のスターサイエンティストを生みつつあります。
かつて、研究者が独立主任研究者(PI)として自らのラボを持つには、10年以上のキャリアと、大型の実験装置、多数のスタッフ、膨大な運転資金などの多大なリソースが必要でした。しかし、 AI for Science の時代では、研究室は小さな体制でも成り立ち、シミュレーションベースの研究なら大型装置を持たなくても最前線に立つことができます。AI が文献調査、コード生成、データ解析、仮説案の整理といった作業を支えれば、少人数でも大きな研究成果を生み出せるのです。仮説探索や解析のコストが下がることで、若い研究者が早い段階から独自の研究テーマを掲げやすくなっています。
ZERO INSTITUTE に集う若手研究者の中には、移動中にも AI エージェントを使ってデータ解析を進める人がいます。また、博士課程の段階から AI を研究アシスタントのように活用し、早い段階から PI に近い動きをする研究者も現れています。AI は、もはや研究室の一員と言えるのです。
ZERO INSTITUTEにはAI for Scienceを実践する研究者が集う
さらに、こうした研究者の多くは、産業界で広く知られる前の段階にいます。AI for Science の時代、スターサイエンティストが頭角を現すまでのサイクルは短くなっています。公開された実績だけを見てからでは、研究の最前線が形成される初期段階に関わる機会を逃してしまいます。次の世代を牽引する研究者に早い段階で出会うことは、企業にとってイノベーション戦略の構築・実行を支え、ひいては競争優位に直結します。
ZERO INSTITUTE は、その場をつくります。東北大学を起点に、次世代のスターサイエンティスト候補と、企業・官公庁が早い段階から対話できる仕組みを設計すること、それが ZERO INSTITUTE の核心にあるものです。
AI for Science の加速は、研究者のキャリアだけでなく、企業の R&D 戦略を根本から塗り替えつつあります。どの技術シーズを早期に見極め、どの研究者と信頼関係を築くか。その判断が、次の10年の競争力を決めます。
ZERO INSTITUTE に集う次世代のスターサイエンティストとともに、AI for Science の最前線を議論しませんか。
ZERO INSTITUTE に関するお問い合わせは、[お問い合わせフォーム]からお願いいたします。
執筆者:亀岡 恭昂
Director, ZERO INSTITUTE
Vice President, HERO Impact Capital
参考文献
[1] Gottweis, Juraj et al. "Accelerating scientific discovery with Co-Scientist." Nature, May 19, 2026. https://www.nature.com/articles/s41586-026-10644-y; Gottweis, Juraj and Natarajan, Vivek. "Accelerating scientific breakthroughs with an AI co-scientist." Google Research Blog, February 19, 2025. https://research.google/blog/accelerating-scientific-breakthroughs-with-an-ai-co-scientist/
[2] Nobel Prize Outreach. "The Nobel Prize in Chemistry 2024 — Popular Information." NobelPrize.org, October 9, 2024. https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/2024/popular-information/
[3] U.S. Department of Energy. "Energy Department Launches 'Genesis Mission' to Transform American Science and Innovation Through the AI Computing Revolution." November 24, 2025.; U.S. Department of Energy. "Energy Department Announces 26 Genesis Mission Science and Technology Challenges to Accelerate AI-Enabled American Innovation and Leadership." February 12, 2026.; U.S. Department of Energy. "Energy Department Announces $293 Million in Funding to Support Genesis Mission National Science and Technology Challenges." March 17, 2026.; Cho, Adrian. "Why Energy Department's science labs will spearhead federal push for AI." Science, 2026. https://www.science.org/content/article/why-energy-department-s-science-labs-will-spearhead-federal-push-ai
[4] SLAC National Accelerator Laboratory. "Ever-changing universe revealed in first imagery from NSF-DOE Vera C. Rubin Observatory." June 23, 2025. https://www6.slac.stanford.edu/news/2025-06-23-ever-changing-universe-revealed-first-imagery-nsf-doe-vera-c-rubin-observatory
[5] Vera C. Rubin Observatory. "Data."; Vera C. Rubin Observatory. "NSF DOE Vera C. Rubin Observatory Launches Real-Time Discovery Machine for Monitoring the Night Sky." February 25, 2026.
[6] University of Toronto. "U of T receives $200 million grant to support Acceleration Consortium's self-driving labs research." April 28, 2023. https://www.utoronto.ca/news/u-t-receives-200-million-grant-support-acceleration-consortium-s-self-driving-labs-research; Acceleration Consortium. "AC Labs and Facilities." https://acceleration.utoronto.ca/labs-facilities/; Acceleration Consortium. "Vision." https://acceleration.utoronto.ca/vision/